パンデミックで収入が減ると歯の痛みが増える――国内Web調査

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴い、仕事や収入が減った人や失業した人は、歯の痛みを訴えることが多いというデータが報告された。この関連の背景には、精神的ストレスや歯科受診の延期、間食の増加などが関与しているという。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の松山祐輔氏らの研究の結果であり、詳細は「Journal of Dental Research」に4月1日掲載された。

経済状況や精神的ストレスが、歯痛などの口腔疾患の発症と関連していることが以前から指摘されている。現在のCOVID-19パンデミックは、経済状況の悪化やストレスの増大に加えて、歯科受診延期などの行動の変化を生じさせ、人々の口腔衛生に影響を及ぼしている可能性がある。松山氏らの研究は、その実態を明らかにするためのもの。

この研究は、COVID-19パンデミックの社会・医療への影響を把握するために2020年8月25日~9月30日に実施された大規模Web調査「JACSIS(Japan COVID-19 and Society Internet Survey)研究」のデータを利用して行われた。解析対象者の年齢は15~79歳で、有効回答数2万5,482件、男性が49.7%だった。

結果について、まずCOVID-19パンデミックによる収入や就労の変化を見ると、25.1%の人は世帯収入が減り、19.5%は仕事量が減少、1.1%は失業していた(仕事量の減少および失業は調査時に就業していた人における値)。次に、口腔衛生に関連する質問項目については、全体の27.3%は間食が増え、13.9%が歯科受診を延期し、3.0%は歯磨きの回数が減ったと回答した。また8.3%は、ストレスの負荷が強い状態(K6スコアという合計24点の指標で13点以上)と判定された。

直近1カ月間に歯痛があった人の割合は9.8%だった。年齢、性別、2019年の世帯収入、1年以内の歯科検診受診、居住地域、および社会的経済状況の変化の影響を統計学的に調整後、収入や就労状況の変化が歯痛と有意に関連していることが明らかになった。

具体的には、世帯収入の変化がない人に比べて世帯収入が減った人の歯痛のオッズ比(OR)1.42(95%信頼区間1.28~1.57)、仕事が減った人は仕事量が変わらない人に比べてOR1.58(同1.41~1.76)、失業を経験した人は就労を続けられている人に比べてOR2.17(同1.64~2.88)だった。また媒介分析により、世帯収入の減少と歯痛との関連の21.3%(同14.0~31.6)は精神的ストレス、12.4%(同7.2~19.6)は歯科受診の延期、9.3%(同5.4~15.2)は間食の増加によって説明可能であることが分かった。

なお、パンデミック後に世帯収入が増加したケースも、歯痛のオッズ比が高いことと関連していた(OR1.31、同1.04~1.66)。ただし世帯収入が増加したのは全体の3.0%とわずかであり、媒介分析などの詳しい解析は不能だった。

以上から著者らは、「COVID-19パンデミックの影響で経済状況が悪化した人には、歯痛が多いことが明らかになった。経済状況の悪化が精神的ストレスや健康行動の変化につながり、歯痛を引き起こした可能性がある」と結論付けている。また、「国内には何らかの歯科処置を必要とする人(例えば詰め物が外れた状態など)が4000万人近くいるとされており、パンデミックによってそれらの人に痛みが現れる可能性もある。収入減や失業などに対する経済的政策が、歯科疾患の悪化を抑制し得るのではないか」と付け加えている。(HealthDay News 2021年5月17日)

Abstract/Full Text

https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/00220345211005782

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